狡猾な王子様
「なんだ、それ」


心底呆れたようなため息が零され、真冬の風のように冷ややかな視線が向けられる。


居た堪れなくて目を逸らそうとした時、秋ちゃんが頬杖を付きながら私を真っ直ぐ見た。


「なぁ、ふう」


言葉は返さずに視線だけを合わせると、真剣な表情が視界を占めた。


「自分の心の内なんてな、ちゃんと言葉にしたって上手く伝わらねぇことが山程あるんだぞ。それなのに言葉にしなかったら、ますます伝わるはずがねぇんだよ」


秋ちゃんの言い分は、もっともだと思う。


それでも、なんでもはっきりと言える秋ちゃんみたいに思ったことを言葉にするのは、私にとってはとても難しいことなのだ。


「……南ちゃんは?」


「南?」


私が知っている限り、南ちゃんはとても話しやすくていい人だけど、どちらかと言えば大人しそうなイメージがある。


「……うん。秋ちゃんに、ちゃんと言いたいこと言ってるのかな?」


頭に浮かんだ疑問を口にすると、秋ちゃんは即座にフンッと鼻で笑った。

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