狡猾な王子様
「知るか」


無責任とも取れる言葉にポカンとすると、秋ちゃんがビールをグイッと呑んだ。


「大体な、長年一緒にいる家族や夫婦だって、言わなきゃわからねぇことがいっぱいあるんだぞ。それなのに、たった一年付き合ったくらいの恋人のことがホイホイわかると思うか?」


「それは……」


「そんなもんわかったら、エスパーだろ」


ため息をついた秋ちゃんが、チョコレートにも手を伸ばす。


「でも、南には常々『思ってることはちゃんと言葉にしろ』って言ってあるし、少なくとも俺は南はそれに応えてくれてると思ってる」


秋ちゃんは、遠くを見つめるようにしながらフッと笑った。


「お前らは知らないだろうけど、あいつは俺と対等に口喧嘩出来る女だぞ」


「えっ!?」


中学時代、厳しい体育教師と言い合いをしていた秋ちゃんの姿を思い出し、思わず目を見開く。


「……ま、そういうことだ」


にわかに信じられないけど、どうやら南ちゃんは外見とは裏腹に気が強そうだ。

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