狡猾な王子様
「これ、とりあえずひとつ目の荷物です。どこに置きましょうか?」


「じゃあ、そこに置いてくれるかな」


「はい」


英二さんが視線を遣ったのは、一枚板になっているカウンターのテーブル。


そこに段ボールを置くと、濡れた手を拭った彼が調理場から出て来た。


「荷物、まだあるよね?」


「はい、今日はあとふたつです。すぐに取って来ますね」


「待って、冬実ちゃん。俺も一緒に行くよ」


「いえ、大丈夫ですから。英二さんは待っててください」


「ふたりで運んだ方が早いよ。それに、女の子にひとりで荷物を持たせて、何往復もさせるわけにはいかないから。ね?」


瞳を緩めた甘やかな表情に、胸の奥がトクンと高鳴る。


今ではすっかり慣れてしまったやり取りだけど、英二さんの思いやりが嬉しくて堪らない。


「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」


いつものように笑顔を返すと、彼はスッとドアを開け、先に出るように促してくれた。

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