狡猾な王子様
「飲んでみて」


「いただきます」


グラスに口を付けてアイスティーを一口含むと、キンと冷えた上品な風味が口内に広がり、渇き掛けていた喉を潤してくれた。


「アールグレイ……じゃないですよね。ブレンドティー、ですか？」


「正解。癖がなくて飲みやすいでしょ？」


ニッコリと微笑んだ英二さんに、コクンと頷く。


「すごく美味しいです」


気まずさは消えていないし、脳裏に張り付いたままのこの間シーンに憂鬱な気持ちは強くなっていくのに……。


本当に美味しい物は、こんな時でも美味しいらしい。


高級感が溢れている紅茶の缶を見せて貰ったせいなのか、それともそんな風に感じられる私が意外と図太いのか……。


どちらにしても、不思議なものだ。


「これ貰った時さ、今度冬実ちゃんが配達に来てくれた時に淹れてあげたいなーと思って」


「え？」


優しく笑う英二さんに思わず目を小さく見開いたけど、変に期待をしてしまいそうになる自分を叱責して、すぐに曖昧な笑みを浮かべた。

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