狡猾な王子様
英二さんがあんな風に言ってくれるのは、山野農園(うち)との関係があるから。


決してそれ以上のことも、そこに深い意味もない。


素直に喜べないことに苦しくなりながらも、なんとか自分自身にそう言い聞かせたのに……。


「冬実ちゃん、紅茶好きでしょ。ちょっとレアな物らしいし、きっと喜んでくれると思ったんだ」


英二さんはやっぱり、私に期待を持たせるように優しく微笑む。


それはまるで、作り笑顔ばかりの私を追い詰めるように思えた。


英二さんは、こんな私にもとても優しい。


だけど……。


それって、結構残酷だ。


「冬実ちゃん?」


俯いてしまった私の顔を英二さんが覗き込もうとするから、私はそれを遮るようにさらに下を向いた。


「どうしたの?」


心配そうな声音が降って来るけど、どうしても顔を上げられそうにない。


「あ、もしかして口に合わなかった?」


見当違いなことを言う英二さんが、少しだけ憎く思えて来る。

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