狡猾な王子様
「だったら、無理に飲まなくても……」


やるせなくて、そんな理由じゃないことを伝えたくて……。


「違いますっ……!」


らしくもなく、大きな声を出しながら顔を上げた。


「そうじゃ、なくて……」


目を見開いて驚いていることを語る英二さんになにを言うつもりなのか、この時点では自分でも本当にわからなかった。


ただ……。


「あ、私……っ、は……」


自分自身を指す単語を口にしながら、次に紡ごうとした言葉の意味に気付く。


そして、それを告げることで、ますます傷付くであろうことも……。


それなのに……。


「好き、っ……なんです……」


自分でも驚く程、いとも簡単にそんな台詞が零れた。


緊張とか、不安とか。


そんなことを感じるよりも早く、認めたばかりの気持ちを口にするなんて。


あまりにも浅はかな自分自身を恨めしく思うのに、不思議と後悔は生まれて来ない。


それどころか、間髪を入れずに再び口を開いていた。

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