狡猾な王子様
『ありがとう』の意味を理解することができなくて、それはどんな時に遣う言葉だったのか、なんてバカみたいなことを考えてしまう。


そんな中、私に向けられた笑顔があまりにも優しくて、やっぱり泣いてしまいそうになって……。


意図せず、瞳の奥から熱が込み上げて来る。


どう返せばいいのかわからずに英二さんを見つめたまま言葉を失っていると、彼はさらに信じられないようなことを口した。


「俺も好きだよ」


今度こそ、本当に聞き間違いなんじゃないかと思った。


だって……。


そんなはずはない。


英二さんみたいな素敵な男性が、私みたいに冴えない女のことを好きだと言ってくれるなんて……。


そんなことは、絶対に有り得ない。


やっぱり空耳だったのか、はたまた都合のいい夢でも見ているのか……。


「あ、あの……今、なんて……」


そんなことを考えながらようやく声を発すると、英二さんが瞳を優しく緩めてフワリと笑みを浮かべた。

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