狡猾な王子様
「俺も好きだよ、って言ったの」


囁くような声音で優しく言った英二さんは、続けて「聞き間違いだとでも思った?」なんてクスクスと笑う。


その言葉に頭がクラクラして、にわかに信じられない展開に再び言葉を失って。


それでも、心はたしかに喜びを感じている。


舞い上がって、舞い上がって。


夢でもいいや、なんて考えながらも、やっぱり舞い上がって。


天にも昇るような気持ちになって、喜びのせいだと的確にわかる瞳の奥の熱が溢れ出してしまいそうになった時……。


「女の子は皆、好きだよ」


叩き付けられるような勢いで、心が落下した。


「え……?」


冷や水を浴びせられたように、体が一気に冷える。


体温を取り戻し掛けていた指先はまた熱を放して、急激に冷たくなっていく。


目の前にいる英二さんはさっきまでと変わらず笑っているのに、その表情は私の体と同じように冷たさを感じるもので……。


ほんの一分程の間に、天国と地獄を見せられたような気がした。

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