狡猾な王子様
「心はあげられないけど、体だけならあげてもいいよ?」


発された言葉も声も、まるで温度を忘れたように冷たくて。


柔らかに微笑む表情は、まるで悪魔が笑っているのかと思う程に冷たくて。


背筋が凍り付くのを感じながら、込み上げて来る熱を堪えるのを忘れてしまっていた。


ポロリと零れた雫が、カウンターテーブルを濡らす。


すると、英二さんはどこか困ったように苦笑した。


「泣かないで」


宥めるように優しく紡がれた言葉が、鼓膜をそっと揺らす。


だけど……。


「女の子に泣かれるのは苦手なんだ」


そこには優しさなんて微塵も感じられなくて、今までに見て来た英二さんの優しさがすべて嘘だったかのように思える。


声を押し殺してポロポロと涙を零し続ける私に、彼はまた微かな苦笑を漏らしてため息をついた。


「ごめんね」


本当に悪いと思っているのかはわからないけど、そう言った英二さんの声はやっぱり優しくて、今の私には残酷なくらい真っ直ぐに突き刺さる。

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