狡猾な王子様
勢いで立ち上がった私は、すぐに引っ込めた手をグラスに当ててしまった。
茶色の飛沫を舞い散らせるように飛ばしたグラスが落下する様が、やけにスローモーションに映って……。
その直後、店内にガラスの割れる音が派手に響いた。
「冬実ちゃんっ!!」
慌てて手を伸ばした英二さんが、飛び散る破片から私を守ろうとしてくれたのだとわかった。
だけど……。
私は一歩下がってそれを拒絶し、自らの足をガラスの破片の中へ踏み入れた。
「……っ!」
謝罪を紡ごうと動かした唇から漏れたのは、嗚咽にも似た声。
顔色を変えた英二さんがカウンターから出て来る最中(さなか)、全力で店内を飛び出した。
「冬実ちゃん!」
私を呼ぶ彼を振り返らずに車に乗り込んで、急いでエンジンを掛けてアクセルを踏み込む。
ブォンッと音を上げたエンジンにも、一気に回転数が上がったメーターにも気を留めず、乱暴に木漏れ日亭の駐車場から細い道へと車を走り出させた。
茶色の飛沫を舞い散らせるように飛ばしたグラスが落下する様が、やけにスローモーションに映って……。
その直後、店内にガラスの割れる音が派手に響いた。
「冬実ちゃんっ!!」
慌てて手を伸ばした英二さんが、飛び散る破片から私を守ろうとしてくれたのだとわかった。
だけど……。
私は一歩下がってそれを拒絶し、自らの足をガラスの破片の中へ踏み入れた。
「……っ!」
謝罪を紡ごうと動かした唇から漏れたのは、嗚咽にも似た声。
顔色を変えた英二さんがカウンターから出て来る最中(さなか)、全力で店内を飛び出した。
「冬実ちゃん!」
私を呼ぶ彼を振り返らずに車に乗り込んで、急いでエンジンを掛けてアクセルを踏み込む。
ブォンッと音を上げたエンジンにも、一気に回転数が上がったメーターにも気を留めず、乱暴に木漏れ日亭の駐車場から細い道へと車を走り出させた。