狡猾な王子様
平年よりも降水量が少ない今年は、いつも以上に散水に気を遣う。


農作物は水量が多くても少なくても上手く育たず、見た目ではあまり変わりがないように感じても口にしてみるとその出来は歴然だ。


外の畑には散水機を、ビニールハウス内には潅水(かんすい)チューブという機械を取り付けていて、それぞれタイマーや水量を設定していれば自動で散水する仕組みになっているけど……。


おじいちゃんの意向で、タイマーは使わず、水量もその日の天候や作物の状態を確認しながら手動で調整している。


ただ、私にはまだ微妙な水加減がわからないから特にできることもなくて、結局は二箇所に別れている散水機の電源を入れたあとは手持ち無沙汰だった。


程なくして畑にやって来たお父さんは、軽トラに荷物を積み込むとすぐに配達に出掛けた。


私はいつものようにおじいちゃんたちと畑仕事をこなしていき、忙しくしているその間だけはほんの少しだけ気が紛れてホッとした──。

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