狡猾な王子様
「それじゃあ、配達よろしくな」


「うん」


「運転、気をつけてな」


「わかってるよ。じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


午前中の作業と昼食を済ませたあと、いつものようにお父さんに見送られながら配達に向かった。


正直、英二さんに会う覚悟はまだできていないけど、注文が入っている木漏れ日亭に行かないわけにはいかない。


不運なことに、今日はそれ以外の配達が一箇所しかないから、あと一時間もすれば彼に会うことになるだろう。


なんで今日に限って……。


心の中でそんな風に嘆いても、英二さんに会う時間は刻一刻と近付いて来る。


頭の中は相変わらず情けないくらいにグチャグチャで、とても笑顔を作れる自信はなかったけど……。


深いため息を何度も漏らしながらも、予定通り一軒目の配達先に荷物を届けた。


それから木漏れ日亭に向かう間、今日に限っては例え女性客であってもお客さんが残ってくれていることを、心の底から願っていた。

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