狡猾な王子様
英二さんは少しだけ困ったような顔をしたあと、私の為に淹れてくれていたアイスティーのグラスを手にした。


汗を掻いたそれが、彼の手を濡らす。


グラスをサッと拭いてくれた英二さんが、いつものように柔らかく微笑んだ。


「もしよかったら、飲んで行って。この間とは淹れ方を変えてみたから、感想を聞かせてくれたら嬉しいんだけど」


「はい」


やっぱり胸の奥は痛むけど、『忘れてください』と言ったのは自分自身。


その為には、私自身も踏ん切りを付けなければいけないだろう。


まだ上手く笑える自信はなかったけど、英二さんが淹れてくれたアイスティーはやっぱり美味しくて……。


心はたしかにまた傷付いたはずなのに、どこか幸せにも似た温かい感情に包まれる。


「美味しいです。私、こっちの方が好きかもしれません」


「本当?」


「はい。香りも引き立ってる気がします」


複雑な気持ちを抱きながらも、ごく自然と柔らかい笑みが零れていた──。

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