【特別番外編】苦手な教師
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「もうすぐ、バレンタインかぁ……」
星が綺麗な冬の夜。
白い息を吐き出しながら隣を歩く千秋が、ハートとチョコの溢れる雑貨屋のショーウィンドウを見ながら呟いた。
最近ますます綺麗になった彼女は、今年大学を卒業する。
無事に都内の公立高校に就職することも決まっていて、仕事に慣れたら結婚の話を具体的に進めようと話している。
つまり今、僕たちは幸せいっぱいだ。
……なのに千秋が、上目遣いに僕を見てこんなことを言う。
「今年は……買ったチョコでもいいですか?」
「え……どうして」
「卒論が終わりそうになくて……チョコを作る時間が……」
えー?とあからさまに不満を口にしたいのをぐっと堪えた。
僕、もう34だし。
チョコくらいで拗ねるなんて、みっともない。
それでも沈んでしまう声でなんとか「仕方ないですね」と口にすると、千秋がぽつりと言う。
「どうせ生徒たちにいっぱい貰うんだからいいじゃないですか」
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