【特別番外編】苦手な教師
何度か話すうちに、僕は気がついた。
真山は自分とは正反対の考えの持ち主である、と。
「若いって、いいですよねぇ……僕はたまに生徒たちの年齢に戻りたくなりますよ」
校庭でサッカーか何かをしていた男子を職員室から眺めて僕が呟けば……
「大人の方が楽ですよ。無駄なエネルギーを使わなくて済みますから」
真山はつまらなそうにそう言う。
――また、別の日。
同僚の東(あずま)先生という女性の先生がクッキーを焼いてきて、職員室の先生方に配っていたときのこと。
そのクッキーは見た目はよかったものの、ぱさついてる上やけに甘くて、美味しいと言えるものではなかった。
しかし、本当のことを言わないのが優しさだろうと思い
「ごちそうさまでした。東先生はきっといいお嫁さんになりますね」
と、言った僕に対し。
「これはバターと砂糖の量を確認した方がいいと思います。不味くはないが、人にあげるものじゃない」
真山はばっさりと、本当のことを言い切った。
そして東先生が喜んだのは、真山の方の助言だった。
「このまま彼にあげるところでした、ありがとうございます」
そう言った東先生の笑顔が眩しくて、妙な敗北感に苛まれたのを覚えている。