【特別番外編】苦手な教師
しかし、一番の悔しい思い出はバレンタインの日にある。
僕は毎年、数十人の女子生徒からチョコを貰える立場にあった。
それは、普段からみんなが僕を信頼してくれている証拠……そう思い、いつもささやかな優越感に浸っていたのだが。
その年は、僕のもとへやってくる生徒の数が極端に減っていた。
「恩ちゃん、これあげるー!」
「ありがとう、もしかして手作りですか?」
「あったりー。あたしの愛が詰まってるからちゃんと食べてね!」
それでも、こんな会話をしながら放課後までに十個以上は貰えていたから、こんな年もあるさと思いながら職員室に向かうと……
僕はそこに広がっていた光景に、唖然としてしまった。
明らかに中身はチョコだと思われる可愛らしい紙袋を持って職員室の前に列をなす女子たち。
しかも彼女たちは……
「真山先生、受け取ってくれるかな……」
「授業中絶対笑わないから、ちょっと怖いよね」
「でもカッコイイ!あの目に蔑まれたい〜」
キャアキャア言いながら、みんながみんな“真山”の話をしていた。