秘蜜の秘め事
この爪痕にただならぬ気配を感じたのは、僕の気のせいか。

僕はその気配を消すように、爪痕のうえに新しい“痕跡”をくちづけたのだった。

気のせいだ。

何かの間違いだ。

頭の中で呪文のようにそのセリフを言いながら、梨衣の背中に“痕跡”をつけた。

梨衣が僕から離れる訳ないじゃないか。

僕は梨衣が好きで、梨衣も僕が好き。

だから、お互いが離れる訳ないじゃないか。

こんなことを思う僕は、独占欲が本当に強いんだと思う。

「じゃあ、そうしようか?」

梨衣の言葉に意識を戻された。

「わたしはまだ眠くないけど、真が眠るまで添い寝してあげる」
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