秘蜜の秘め事
それからガタッと椅子から腰をあげて、
「ちょっと、外の空気を吸ってくる…」

そう言って真はベランダの方へ向かった。

カラカラと音を立てて、ベランダの窓が開けられる。

そこから入ってきたのは、まだ冷たい春の夜の風。

部屋に入ってくる風をさえぎるように、真は窓を閉めた。

わたしは窓越しに真の背中を見つめることしかできなかった。

声をかけたら、怒鳴られるんじゃないかと言う恐怖。

そばに行ったら、振り払われるんじゃないかと言う恐怖。

それらが躰を支配して、動くことができなかった。

さっきまでの楽しい夕食は、夢だったんじゃないかと思った。

時間が経てば経つほど冷めてくる夕食に、わたしは口をつけることも手をつけることもできなかった。
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