秘蜜の秘め事
人間は、忘れろと言われるとそれを忘れることができない生き物だ。

「――真?」

名前を呼ばれて顔をあげると、梨衣だった。

今日の夕飯は、めんたいこのパスタである。

「何かあった?」

そう聞いた梨衣に、
「いや、何にも…」

僕はそう答えて、パスタを口に入れた。

本当は何かあったと言うのに、それを隠したくなるのも人間と言うものだ。

だけど…ビー子のことは話に出さない方がいいと思った。

優しい梨衣のことだ。

話に出したら、梨衣も傷ついてしまうことは間違いない。

何より楽しい夕食時に昼ドラ真っ青の話題を出すのは…僕は首を横に振った。
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