秘蜜の秘め事
時子さんは悲しそうに目を伏せて、
「私は、そう言うことができなかったから。

だから、梨衣には私のようになって欲しくないんです」
と、呟くように言った。

「好きな人が、いたんです。

その人とは、結婚の約束をした仲でした」

昔話をするような口調で、時子さんは語り始めた。

「でも、その人と交わした約束がかなうことはありませんでした。

お互いの両親の反対にあって、別れさせられたんです…」

時子さんの声が、震えたものに変わった。

「その後私は両親に強制的にお見合いされて、そのお見合い相手――梨衣の父親と結婚しました。

だけど元夫はひどい浮気性で、私が梨衣を妊娠している間に違う女と関係を持っていたんです。

私はそれが耐えられなくなり、梨衣が3歳の時に離婚しました」
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