青い猫の花嫁

トワ?

手をギュッと握ったまま、トワはあたしを覗き込むように見る。


「そっちじゃない。こっち」

「え?」


で、でも……爽子たちはあっちに……。

視線だけ向けると、トワがさらに手に力を込めた。



「ほんとはさ、ツライんでしょ?」


え?
ハッとして顔を上げると、視線を逸らしたままトワは爽子たちがいた場所とは反対へ歩き出した。

……ツライ?

なにを……。あ、そっか。
もしかして、トワは松田君の事言ってるのかな。
あたしが、松田君と爽子を見てたから、勘違いしたのかもしれない……。

そう思うと、トワの優しさが歯がゆくて、胸の中がキュってなった。




「えへへ」

「……なにが可笑しいの?」

「なんでもなーい」


トワに手を引かれるの、少し照れくさいけど、それでも心地いい。

松田くんを好きだったことなんて、とっくに忘れられてると思ってた。
でもトワは、しっかり覚えていて。

あたしがツラい思いをしていないかって、そんなふうに思ってくれてたんだって、心も身体もふわりって宙に浮いたみたいに、軽くなる。

不思議。心のウラガワをくすぐられてるみたい。


顔がにやけっぱなしのあたしを見て、しばらく何か考えていたトワは、思い出したみたいに言った。


「あ、わかった。キスしたいんでしょ?」

「そうそう……ってちがーう!」


違う違う、違うからー!

振り返って、グイッてその顔を寄せてきたトワを、慌てて押しやる。


「違うの?ダメだ……。真子がわからない」

「……」


真っ赤になったあたし。
押しやられたまま、ジトっと目を細めたトワ。

あたしも、トワがわからない……。

これって、デジャブ?

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