青い猫の花嫁
「学校終わったらさ、藍原んち行ってみよーぜ」
「え?ま、松田君、トワの家知ってるの?」
ガバッと思わず身を乗り出したあたしに、彼はしれっと返す。
「んーん。知らね」
はい?
「し、知らないの?」
「うん。だって俺、藍原トワって存在もつい最近まで知らなかったし」
「……」
なんだぁ、知らないのか……。
松田くん……。からかってる?
なんだか肩透かしをくらった感じで、まったくもっていつも通りの穏やかな笑みを浮かべる彼をジトっと睨んでしまった。
「知ってるヤツに、聞けばいいよ」
知ってるヤツ?爽子が知ってるのかな?
首を傾げたその時だった。
勢いよく、教室の扉が開いて、新しい先生が顔を覗かせた。
「何をしてる!始業式始まるぞ。早く並べ」
わっ、やば……。
なんか怖い感じの先生だな……。
慌てて立ち上がると、教室の入り口で腕組みをしている先生の姿が目に入った。
真っ黒でタイトな背広。
スラッと長身で、艶やかな黒髪。
その眼差しは、氷のように冷たく廊下に出る生徒に睨みを利かせている。
あれ?……んん?
「あーーーーーーっ!」
思わず指差して、叫んでいた。
―――ギロリ。
あたしが叫んだ事にピクリとも表情を崩さずに、さらに恐ろしい顔になる。
ひ!と背筋が凍りそうな程の眼力で、あたしを睨んだその人は。
三國家で出会った、総司朗さんだった。