青い猫の花嫁
「知らん」
ギコ
古い可動式の椅子が軋む。
目の前の、総司朗さ……三國先生はあたし達に背を向けたままそう言い放った。
し、知らないんだ……。
始業式も無事に終わり、松田君に連れられて帰る前に職員室に訪れていた。
「って、知らないハズないでしょう?総司朗さん先生なんだし」
ニコニコとそう言った松田くんを、ジロリと見上げて、総司朗さんはウンザリしたようにため息をついた。
「ここはどこだ。俺の事はなんて呼ぶんだ」
「センセイ、藍原ずっと連絡とれないんスよ。トモダチとして心配なんで、お見舞いにでも行こうかって話てたんです。 立花と」
「……俺は言えん。藍原は俺のクラスじゃないからな」
一瞬だけあたしを見た総司朗さん。
それでもすぐにまた机の上の資料に視線を落とした。
松田くんも呆れたように小さくため息をこぼし、あたしに目配せする。
「あ、あの……失礼します」
さっさと出入り口に向かう松田君の後を慌てて追う。
と、その時だった。
「場所なら、アレに聞くといい」
え?
クイッと何かを顎で指し示した総司朗さん。
その先には……。
あ!えっと、確か……。
「郁くん!?」
「え?」
真っ直ぐで癖のない髪が流れるように動き、職員室にいた郁くんが大きく目を見開いた。