青い猫の花嫁
「……トワくん、怒ってましたね」
「え?」
松田君たちと同じように、笑って「驚いてたね」って言うと思ってた。
でも郁くんは「怒ってた」、そう言ってぎこちない笑みを零す。
そう。
そうなんです……。
あんなに怖い顔のトワ、初めて見たんです。
俯いたままでいると、郁くんの視線を感じて顔を上げた。
目が合った瞬間、郁くんは意を決したように口を開いた。
「あの!……あの、真子さんが、正宗兄様の言ってたように、本当に“約束の人”なら……来たるべきその日に、選択を間違えないで下さい! お、お願いしますっ」
「……」
キタルベキ、ソノヒ?
センタクヲ、マチガワナイデ?
それって……どういう……
まるでワンコのように、大きな瞳をグっと細めた郁くん。
聞きかえそうとしたその時、玄関のドアが開いて、中からトワが顔を覗かせた。
「どうしたの、みんなして」
その声はいつもと変わらない。
無表情のトワは、あたし達の前まで来ると、腕を組んだ。
いつもと同じ。
でも……。
「藍原~、お前今日から学校って知ってる?」
「え、学校?」
松田君のその言葉にピクリと反応したトワは、首を傾げた。
知らなかったのかな?
「あー……そうなんだ。時間の流れ、わかんなくなってた」
たいして興味なさそうにそう言って、トワの蒼穹の瞳が郁くんに注がれる。
その視線を受けて、ビクリと小さく跳ねた郁くん。
トワの目は、無言で“なんで家まで連れてくるんだ”って言ってる気がした。
「あ!あのね?あの、トワ……全然連絡取れないし、みんな心配してたんだよ?その……おじいさんは……」
情けない。
郁くんとトワの間に割って入ったものの、あたしの口から出てきた言葉は頼りなかった。
ジッとあたしを見下ろすトワの目が、怖い。