青い猫の花嫁


…………。


「トワ?」

「真子、こんな時間に部屋に来たらダメだよ」



きつく回された腕。

耳元をかすめたその声は、いつもの透明なトワの声じゃなくて。
もっと、苦しそうで掠れていた。


耳たぶに触れる吐息に、体がジワリと火照る。



「だって、トワが見えたから」

「余計、ダメ」

「どうして?」



その腕を押しやって、何とか開けた隙間からトワを見上げた。

大きなベランダの窓。
開け放たれたそこから、淡い月の光が差し込んでいて。

トワの髪を、顔を現像的に浮かび上がらせる。


「……。どうしてだろう。今の俺は俺じゃないみたい」

「トワじゃない?」

「そう。俺じゃない」


自虐的に笑って、力なくあたしから手を離したトワ。

儚げなその表情に、胸が詰まる。
抑えていた感情が、今にも溢れそうだ。


離れてしまったぬくもりが、切なくて、あたしはトワに手を伸ばしていた。



あたし……、トワが好きなんだ。

もう、どうしよもないくらい。


心が、彼を好きだと震えている。


ジワリとにじんだ視界の中、驚いたように蒼穹の瞳を見開いたトワ。



「……真子?」

< 164 / 323 >

この作品をシェア

pagetop