青い猫の花嫁
…………。
「トワ?」
「真子、こんな時間に部屋に来たらダメだよ」
きつく回された腕。
耳元をかすめたその声は、いつもの透明なトワの声じゃなくて。
もっと、苦しそうで掠れていた。
耳たぶに触れる吐息に、体がジワリと火照る。
「だって、トワが見えたから」
「余計、ダメ」
「どうして?」
その腕を押しやって、何とか開けた隙間からトワを見上げた。
大きなベランダの窓。
開け放たれたそこから、淡い月の光が差し込んでいて。
トワの髪を、顔を現像的に浮かび上がらせる。
「……。どうしてだろう。今の俺は俺じゃないみたい」
「トワじゃない?」
「そう。俺じゃない」
自虐的に笑って、力なくあたしから手を離したトワ。
儚げなその表情に、胸が詰まる。
抑えていた感情が、今にも溢れそうだ。
離れてしまったぬくもりが、切なくて、あたしはトワに手を伸ばしていた。
あたし……、トワが好きなんだ。
もう、どうしよもないくらい。
心が、彼を好きだと震えている。
ジワリとにじんだ視界の中、驚いたように蒼穹の瞳を見開いたトワ。
「……真子?」