青い猫の花嫁
廉次さんは背もたれに身を預けながら、郁くんを見た。
「あ。ジンジャークッキー焼いたんだけど、食べる?」
「……要りません」
チョイチョイと手招きをして、郁くんに座るように促した。
渋々あたしの隣のあいてる席に腰を落とした郁くん。
なんだかソワソワしていて、落ち着かない様子だ。
「真子ちゃん、今日はトワと一緒じゃないんだね」
「あ、はい。あの、最近トワはやっぱりおじいさんの家に帰っていて……。だからあんまり会ってないというか、顔見てないというか……」
そう言うと、廉次さんは「そっか」と頷いてテーブルの上に視線を落とした。
同じようにそれを追うと、グラスの中でアイスクリームがすっかり溶けてしまっていた。
「それで?郁くんはまだトワの家にいるの?」
え?
唐突の言葉に、首を傾げた。
郁くんって、トワの家に住んでたんだ……。知らなかった。
「……。はい」
声を落として頷くと、郁くんはそのまま足もとをジッと睨んでいるようだった。
「タツオ、うるさいでしょ」
「……関係ないです」
何もかも見透かしている表情の廉次さんはそう言って、俯いたままの郁くんに、肩をすくめた。
「そうやって、逃げてても何もかわらないんだよ?」
「苦手なんです。あの人の考えてる事僕にはわからない」
「ははは。それはお互い様だよね~」
あっけらかんと笑った廉次さんに、郁くんはキッと目を細めた。
タツオ……って前に言ってたタツニって人の事かな。
2人の会話を黙って聞いていると、ふいに廉次さんの目があたしをとらえた。
「ところで真子ちゃん」
「は、はい」
預けていた背中を起こして、廉次さんは頬杖をついてあたしを覗き込むように見た。