青い猫の花嫁
ドキンドキン
ソファの背もたれに体を預けて、トワは覗き込むようにあたしを見る。
背の高いトワに、上目使いで見つめられ、今度は顔がアツくなった。
「もうこの店に来ない方がいい」
え?
キョトンとするあたしに、トワはさらに続ける。
「真子には真子の生活がある。だから俺を通して知り合った人達と、これ以上慣れあわない方がいい」
「……それって、」
冷たい表情。
ジワジワと熱くなっていた体が、一気にさめていくのがわかる。
『そんな気持ちは要らない』
そう言ったトワの言葉が、急にフラッシュバックする。
その時、廉次さんがあたし達の前にジンジャークッキーをもって現れた。
「トワ、言い方間違ってるよ」
廉次さんは眉をひそめて、トワを睨んだ。
「心配だって素直に言えばいいでしょ。そうやって防御線張ってると、叶う願いも叶わないよ?怖いのはわかるけど、それでもやってもらわないと、僕等は……」
「……」
腕を組んだトワは、ジッと廉次さんを見上げている。
悲しそうにその瞳を揺らす廉次さん。
いつもニコニコしてる彼からは想像も出来ないその表情に戸惑っていると、隣に座るトワが小さくため息を零した。
「怖くなんかないよ。怖いはずがない。俺はちゃんとわかってるよ。自分の役割」
「……トワ、僕たちは、」
身を乗り出した廉次さん。
トワは彼の声を制するように、あたしの手を掴んで立ち上がった。
「行こ。真子」
「え?あ……、」
慌ててお財布を出そうとすると、トワがジャラリとテーブルに小銭を置いた。
そのまま強くひかれるまま、廉次さんのお店を後にする。
外は、すでに茜色に包まれていた。