青い猫の花嫁
「この、猫のチャーム?」
「うん。そのチャームが導いてくれるって。俺もサワも半信半疑でさ。訳わかんなくて。でも、サワが言ってた。すぐにチャームが持ち去られたって」
持ち去られた……?
あ、そう言えばあの時、あたしが落っことしたチャームを、黒猫ちゃんが持ってちゃって……、それで三國家まで行ったんだっけ。
「それで全部わかったんだ。立花の事」
「……猫が持ってっちゃっただけで?」
「あれ、ただの猫じゃないからな」
なにそれ?
首を傾げたあたしを見て、松田くんはテーブルにあったフォークを掴むと、ガレットを頬張った。
「式神だよ」
「シキガミ?」
「―――そ。正兄のね。本来なら、普通の人間には見えないはずなんだ」
「へ?」
「あま」と眉間にシワを寄せた松田くん。
そんな彼の横顔を眺めながら、あの日を思い出す。
見えない?見えてたよ?
確かに、不思議な猫だったけど……。
それに、シキガミってなに?
「式神って言うのは、陰陽師が使う術の一つだよ」
そう言って、向かい側のソファに座ったのは、爽子だった。
「色んな式神がいるって聞いた事あるけど、正兄の場合は昔から猫ちゃんだったなぁ」
「術って、あの猫、実体がないって事?」
「んー……魂が集まったもの?って言うのかな……あの子、ああして歩き回ってそれを正兄に伝えてるんだよ」
人差し指で顎を抑えながら、宙を仰いだ爽子は難しそうな顔をした。
へえ、それであんなに正宗さんに懐いてたんだ。
妙に納得して、オレンジジュースを手に取った、その時だった。
―――カランコロン
涼やかなドアベルの音と一緒に、風がふわりと立ち込めた。
夕暮れの初夏。
それでも昼間熱せられたムッとした空気が、頬をかすめた。
誘われるように顔を上げたあたしは、そのまま固まってしまった。