青い猫の花嫁
「ああ、やっと来た」
松田くんのため息まじりの声が、なぜか遠くに聞こえた。
「やっほ~!廉ちゃんっ。ひっさしぶり~」
「いらっしゃ~い、ナギちゃん」
「こんにちは」
ナギさんの後ろから遠慮がちに顔を覗かせたのは、郁くんだった。
「入って入って、郁くん。ん?なんて顔してるの、トワくんは」
「廉次、俺忙しいって言わなかった?」
「まあまあ。ほら、真子ちゃんも来てるんだから」
ドキ!
いきなり話を振られて、傍観してただけに小さく飛び上がった。
そうなのだ。
郁くんやナギさんと共にお店に現れたのは、いつも以上にブスッとしたトワだった。
しかも、彼の腕にはしっかりと、ナギさんの華奢な腕が絡まれていて、あたしの意識はそこに奪われてた訳だけど……。
トワは一瞬あたしを見て、でもその蒼穹の瞳はすぐに伏せられた。
「……ちょっとナギ、いい加減離してくれる?歩きにくいんだけど」
「ええ?いいじゃない、別に~。こうやってた方が、嬉しいし」
「俺は嬉しくないよ」
「トワったら、て・れ・や・さんっ」
ツン!と頬を指差され、トワの顔はさらに不機嫌になった。
どこかで見た光景……。
はっ!
慌てて首を振って、手元に視線を落とす。
そうだ……。ナギさんってトワの事……。