青い猫の花嫁
「……僕も帰ります」
「ありゃ?郁くん帰っちゃうの?」
「ハイ。今日は兄が帰ってくるんです」
「あー……そっか。じゃあ“お兄さん”によろしくね。お店に来いって言っておいて」
「わかりました」
コクンと頷いた郁くん。
鞄を持ち上げて、肩にかけながら、あたしに視線を移した。
「あ、あたしも帰ります!お金……」
「ああ、いいのいいの。ここでのお金は別で降りてるから」
「へ?」
手をヒラヒラさせて、廉次さんは笑った。
お店を出ると、すっかり日は落ちてしまっていた。
時計を見ると、5時を回っていて。
日に日に、太陽が早く姿を消すのを肌で感じていた。
「それじゃ、郁くん。またね」
お店を出たところで、郁くんに手を振った。
あたし達の家は、真逆なのだ。
でも郁くんは俯いたまま、黙っている。
「郁くん?」
どうしたのかな……。さっきの気にしてるのかな。
郁くんも、あたしの事を心配してくれたんだよね?
顔を覗き込もうとした、その時。
郁くんはガバッと勢いよく顔を上げた。
「あ、あの!今日はすみませんでした」
「郁くん……」
やっぱり……。