青い猫の花嫁

「……僕も帰ります」

「ありゃ?郁くん帰っちゃうの?」

「ハイ。今日は兄が帰ってくるんです」

「あー……そっか。じゃあ“お兄さん”によろしくね。お店に来いって言っておいて」

「わかりました」


コクンと頷いた郁くん。
鞄を持ち上げて、肩にかけながら、あたしに視線を移した。


「あ、あたしも帰ります!お金……」

「ああ、いいのいいの。ここでのお金は別で降りてるから」

「へ?」


手をヒラヒラさせて、廉次さんは笑った。




お店を出ると、すっかり日は落ちてしまっていた。
時計を見ると、5時を回っていて。
日に日に、太陽が早く姿を消すのを肌で感じていた。



「それじゃ、郁くん。またね」



お店を出たところで、郁くんに手を振った。
あたし達の家は、真逆なのだ。

でも郁くんは俯いたまま、黙っている。


「郁くん?」


どうしたのかな……。さっきの気にしてるのかな。
郁くんも、あたしの事を心配してくれたんだよね?

顔を覗き込もうとした、その時。
郁くんはガバッと勢いよく顔を上げた。


「あ、あの!今日はすみませんでした」

「郁くん……」


やっぱり……。

< 253 / 323 >

この作品をシェア

pagetop