青い猫の花嫁

はあっ はあっ はあっ


どうやってここまで来たのか覚えていない。
ただ、無我夢中だった。


懐かしい駅を降りて、相変わらず人気のない商店街を横目に山道をかけのぼる。

足がほつれても、絡まりそうになっても
冷たい空気にむせそうになっても、あたしは走るのをやめなかった。


はあっ、はあっ、


見覚えのある紅い屋根。

山の中腹にひっそりとたつその家は、まるで忘れ去られたかのようにさびしかった。



―――ジャリ……


足を踏み入れて、見つけた。

愛おしいその姿を。




トワは、ひとり家の前に立ち、ぼんやりと空を眺めていた。

すぐにあたしに気付いて、蒼穹の瞳が細められた。
それはどこか虚ろで、あたしを見ているようで見ていない。

遠くへ行ってしまう。
そんな気がして、あたしは思わず駆け出した。



「っ!」


そのままトワに腕を回し、力の限り抱きしめる。
お願い、トワ……ひとりで行かないで!



< 261 / 323 >

この作品をシェア

pagetop