WITH


数十分後。


注文したコーヒーを口にしていると、「ねぇ、紗和ちゃん……」おずおずと晴哉が口を開いた。


私は視線だけを向けて、次の言葉を促す。



「もう……、アイツのことは吹っ切れた?」



私の視線から逃れるように、キョロキョロと視線をさまよわせる晴哉が聞き辛そうにしていて……


それでも聞いてきた晴哉に、私は上手な答えを探せないでいた。


賑やかな喧騒とは真逆な程に、私達の間に流れていたのは沈黙。



「ゴメン……ッ!!……今の、忘れて?」



それを破ったのは、晴哉の覇気の無い小さな声だった。


そんな晴哉に何かを言ってあげることも出来ず、私はコーヒーカップを握ったまま窓の外の喧騒を見下ろすことで、その場の空気から逃げていた。



< 253 / 350 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop