WITH
「はい……、」
電話に出た廉は、
私から視線を逸らしただけで。
私はスーツの袖口を握ったままだし、二人の距離も変わらないまま。
でも――…
漏れ聞こえる声は女の人で、
廉の口から紡がれた言葉は“蜜華”。
それが聞こえた瞬間、
ズルズルと握っていた袖口を解放するかのように脱力した。
『廉には、蜜華ちゃんていう大事な人がいるんだから』
啓祐に言われた言葉が胸をよぎって、ズキズキと痛み出す心と緩んでしまう涙腺。
どんなに願っても、
私の許に、廉は戻ってはきてくれない……
見ないようにしていた廉の左手の薬指に光るリングは、今も隠されることもなく、携帯を握る手に輝いている。
垣間見える廉の笑顔は、
電話越しの蜜華さんだけのもの――…
……気付いた時には、
ホテルを飛び出していた。