もう一度愛を聴かせて…
   ◇


「若菜……おまえ」


嵐が過ぎ去った感じだった。

ベッドってこんなに軋むんだ、そんなどうでもいいことを考えてた。シーツをぎゅううっと握り締めてたから、手の平に爪あと残っている。

彼のために塗ったピンクのマニキュアが所々剥がれてしまい、悲しくて涙がこぼれて来た。


わたしの後ろで、橘さんの息を呑む声が聞こえて――ああ、やっと終わったんだ――そう思って、全身から力が抜けた。


「わ、若菜、おまえ……初めてだったのか。まさか、そんな……だって奴は」


離れた瞬間、彼はわたしの出血に気づいたらしい。

口の中で「まさか」「ありえない」と何度も呟きながら近づいてくる。


そして、彼の手が肩に触れたとき、思い切り振り払った。


「来ないでっ! 触らないで、出て行って……もう出て行って!」


心の糸がプツンと切れたようになり、わたしは大声で叫んだ。


「嫌いよ。大嫌い! 出て行って、二度と来ないで!!」


彼はよろよろと後ずさりし、部屋を出て行った。階段を転げ落ちるように下りる音、そして玄関のドアが閉まる音がした。


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