もう一度愛を聴かせて…
出血は翌日まで続いた。下半身の痛みはまだ治まらないし、手首には彼に掴まれた指の痕が残っている。


「わたし……愛してるって言って欲しかった。嘘でもいいから、そう言って……抱かれたかった」


言葉にしたことで、ふたたび涙が込み上げてきて、頭の中を同じ言葉が回り続けた。信じていたのに、愛してたのに、と。


「すまない。本当にすまない。市村に、剣道場で会ったんだ。おまえに誘われて……寝たって。今日が初めてじゃない。何回目か忘れた。おまえが抱いてやらないからだ。腰抜けにちょっかい出すんじゃなかったって、若菜が笑ってた……そう言われて、悔しかった。信じたくなかったけど……奴に、ちょうど今頃シャワー浴びてるんじゃないかって言われて。慌てて駆けつけら、ホントにシャワーの後だったから……俺は……」

「無理やり、キスされたの……市村さんに。お父さんに呼ばれたって嘘をついて、家に上がり込んできて……シャツを破かれて、胸とか触られて……あちこちキスされた。レイプ、されるかもって怖くて、唇を噛んで突き飛ばしたの。あなた以外の人に触られたのが気持ち悪くて、ありったけの石鹸で身体を洗って……」

「そ、そんな、あの野郎!!」

「イヤだったの。市村さんに、されるくらいなら死んだほうがマシって思った。あなたが、好きだったから」


わざとじゃなかったけど、なぜか『好き』が過去形になっていた。


「若菜……すまない。許してくれ、お願いだ。一度だけ……この一度だけ許して欲しい。もう二度とあんな真似はしない。約束する。君が許してくれるまで、君の身体には指一本触れない! 頼む! 信じてくれ」

「ゴメンなさい。今はまだダメ。怖いの。あなたが……怖かった。すごい力で掴まれて、別人みたいだった……ごめんなさい」


わたしはそのまま玄関のドアを閉めた。

許せないとか、怒っていたわけじゃなくて……ただ、怖かった。今度はわたしのほうが、彼のことを信じられなくなっていた。


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