もう一度愛を聴かせて…
なんでそんなことを聞かれるのか意味がわからない。でも思い出そうとするうちに、愕然とした。

最後にあったのが七月のはじめだったと思う。今はもう八月の終わり、三週間ほど遅れている。

それが意味することは……。


「先生の勘違いならいいけど、妊娠初期の症状に近いと思うの。心当たりがあるんなら、正直に言いなさい。嘘をついても無駄よ。大変なことになるんだから」


二十代半ばの先生の顔は蒼白だった。

幼稚園から大学までエスカレーターの私立である。高等部の生徒が妊娠なんて、とんでもない不祥事なのだろう。


心当たりはあった。

彼に……橘さんに力ずくで奪われたあの日、あの一度だけ。

でも、たった一度のことで?

あれだけで赤ちゃんができてしまうなんて、信じられない。そんなこと、そんなバカなことがわたしの身体に起こるはずがない……。


わたしは先生に、


「心当たりはありません」


そう答えたのだった。


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