もう一度愛を聴かせて…
   ◇


どうしよう……妊娠が事実なら、とんでもないことになってしまう。


わたしは夢遊病患者のように、ふらふらした足取りで帰宅する。

こんなことが自分の身に起こるなんて思ってもみなかった。当然だけど、何も考えてない。最初に何をしたらいいのかも、全くわからない。

ただ、どうしよう、という言葉が頭の中を駆け巡っていた。

家の玄関が目に映り、わたしはボンヤリした頭で、鍵を出さないと、と考える。

そのときだ。


「若菜! あ、いや、若菜さん。あの……」

「たちばな、さん」


玄関で追い返して以来だった。


「あ、あの。近くまで来て、それで……悪い、イヤならすぐ帰るから」


もう限界だった。

わたしは彼の顔を見るなり、涙が溢れて止まらなくなる。そのまましゃがみ込んで泣き始めた。


「ど、どうした? どうしたんだ、若菜。何があった? なあ、顔色が悪いぞ、具合が悪いなら救急車を呼ぼうか?」


< 19 / 56 >

この作品をシェア

pagetop