もう一度愛を聴かせて…
「アレからずっと来てないのか?」


わたしは無言でうなずく。


なんて、言ってくれるだろう。

その瞬間、ちょっとズルイことを考えた。子供がいるってわかったら結婚してくれるかもしれない……なんて。

でも、それはそれでひどく惨めな気分だ。


「アレって七月の下旬だったよな。とにかく、検査薬が薬局に売ってるから、それで調べてから病院に行こう。――早めに行かないと」


――早めに行かないと、堕ろせなくなる。


わたしには橘さんの心の声が聞こえた気がした。

どうしようもなく、身体が震えてきた。堕ろさなきゃならないんだって。

わたしはまだ十七歳の高校生。婚前交渉で妊娠しました、なんて、誰にも言えない。お父さんやお母さんが知ったら、叱られる、くらいじゃすまないだろう。

学校でも大騒ぎになるだろうし、イメージが第一のカトリック系の女子校だから、退学は間違いないと思う。

それに、わたしを抱いたって知られたら、橘さんもただじゃすまない。ましてや妊娠させたってわかったら……とんでもないことになってしまう。


「ゴメン……ゴメンなさい……こんなことになるなんて」

「おまえが謝ることじゃないよ。全部俺のせいだ。俺がなんとかするから。とにかくハッキリさせよう。な、若菜」


彼は遠慮がちに、でも、しっかりわたしを抱き締めてくれた。

不思議と身体の震えは止まって、わたしはまだ彼が好きなんだ、ってこのとき思った。


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