もう一度愛を聴かせて…
そう言われて……。

頭の中が真っ白になったまま、診察台のほうにむかってただ、足を進めていた。


下は全部脱ぐように言われ、スカートにすればよかった、と後悔した。

スカートなら下着を脱ぐだけでいいのに、パンツにしたのが間違いだった。


椅子に座ると、自動で背もたれが倒れ、足を置いた部分が左右に割れる。お腹の真上でカーテンが揺れ、何もかもが恥ずかしくて堪らない。

それに、中に押し込まれるものは硬く冷たく……わたしはあのときの痛みを思い出していた。


人目を忍んで産婦人科を訪れ、診察を受けている。

今の自分があまりに惨めで、しだいに天井が滲んで見えてくる。


お腹には、ほぼ間違いなく新しい命が宿っているのに。

でも、誰にも祝福されず葬り去られる命だった。


「妊娠されてますね、おめでとうございます。現在第八週、三ヶ月目に入ったところです」

「三ヶ月って、そんなに前には……」


今は八月の終わりある。単純に考えて五月の終わりなんて、そんな馬鹿な。


「ああ、妊娠はね、最終月経の開始日を妊娠〇週〇日と数えるの。あなたの場合……今日から、第八週に入りますね。単純に計算して、受精の時期は七月半ば過ぎから二十五日くらいまでかしら。心当たりはありますか?」


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