もう一度愛を聴かせて…
「そうね、今診察したから、あなたがほとんど未経験だったということはわかりますよ。でも、たとえ一回でもセックスしたら妊娠するのよ。それがわからないほど子供じゃないでしょう。ちゃんと避妊しましたか?」


先生は多分お母さんより年上だろう。優しそうで、それでいて芯の強そうな女性だった。保健室の木村先生に同じことを言われたら、放っておいてと反発したかもしれない。


「いいえ……多分」

「知りませんでした、わかりませんでした、は通用しませんよ。妊娠を望まないなら、避妊は義務です。とくに男性は自分の身体は傷つけないから、無責任になりがちだけど、ね。女性にとっては、一度の堕胎で一生子供の産めない身体になることもあるんですよ。セックスする以上はちゃんと責任を持たないと。一回くらいなら大丈夫、が甘かったと今ならわかるでしょう? それに……見てご覧なさい」


先生はそう言うと、モニターの画面をわたしのほうにクルッと向けた。


「あなたの赤ちゃんよ」


画面の中に白い塊が映っていた。

その中に点滅する点があり……細いけど四方に伸びた枝は手足?


「点滅が心臓です。もう、心拍が確認されてますから、流産の心配はありませんね。順調に大きくなってますよ」


その映像を見た瞬間、わたしの中で何かが弾け飛んだ。


「どうして? どうしてできるのよ! だって愛されてないのに……愛し合ったわけじゃないのに! 苦しいだけ……痛いだけだったのに……」


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