もう一度愛を聴かせて…
第6話 勇気をください
「A市内の産婦人科に、麻生若菜さんが通院している、という連絡を受けたんですが……」


わたしと両親は校長室に呼び出された。

A市はふたつ隣の市で、安西産婦人科のある場所だ。駅で数えたら八つも離れている。きっと、わたしのことを知っている誰かに見られたのだ。


学校長や教頭、学年主任、担任、養護教諭に囲まれ……わたしはとうとう、首を縦に振ってしまう。


「私は確認したんです。でも、心当たりはないと言われたら、私にはそれ以上のことはできませんから。ちゃんと自分の責任は果たしています。生徒ひとりひとりについて回れるわけじゃありませんし、あとは、担任の先生と保護者の方の役目じゃないんですか?」


養護の木村先生は、弁解と責任転嫁に必死だ。

どうやら、わたしが倒れたとき、その兆候に気づいたならどうして報告しなかったのか? と言われたらしい。

色々弁解しているけど、面倒なことに巻き込まれるのが嫌だったに決まっている。


木村先生の目は、ドジなわたしを責めていた。

きっと、誰にも知られないうちに、手術して欲しかったのだろう。


それは担任も同じだ。

わたしの担任は五十代半ば、定年まで後数年の男性教師だった。


「いや、そういうことを相談するのは、やはり女性教師や養護教諭のほうが適任でしょう? そのために、我が校でも相談室を開設してるんです。お若い木村先生の役目は、こういうときのためなんですがねぇ」


でもしだいに、双方で責任を擦り合っていても無駄だとわかったみたいだ。


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