もう一度愛を聴かせて…
   ◇


九月に入って間もなく、今度はお母さんの選んだ病院で診察を受け、即日手術と決まった。

学校からの連絡は、自主退学の扱いで他校に編入を勧められている。でも今は、そんなことを考える余裕なんかない。

携帯を水没させたから、当然、橘さんと連絡は取れない。

それにもう、考えることすべてが辛くなり、なんだか、どうでもよくなってきていた。

嫌なことから目を逸らしたら、それまでキラキラしていた“素敵な恋愛”とか“未来の夢”とか“結婚への憧れ”とか……楽しいはずのことまで何も見えなくなった。


そして当日、わたしはお母さんが付き添われて病院に行った。

そこの先生は年配の男の先生だった。多分お父さんより年上に見える。その先生から、わたしはすでに妊娠九週に入っていると言われた。


次の瞬間、『ドッドド、ドッドド……』雑音と共にスピーカーを通したような音が響き、わたしはそっちを見た。

モニターには赤ちゃんが映っていた。


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