もう一度愛を聴かせて…
それから、どのくらい時間が経ったのだろう。前の道路を何台かの車が通り、マンションの駐車場にも数台の車は出入りした。

わたしは、人が通ったりしたときだけ、しゃがみ込むように足元のスリッパを隠した。


早く、早く帰ってきて欲しい。でなきゃ決意が鈍りそうだ。そう思った瞬間、マンションの正面に耳をつんざくような音でタイヤを軋ませ、一台の車が停まった。同時に、中から転がるように出て来たのが彼だった。

どうして駐車場に停めないんだろう? そんなことを思いながら、それでもホッとして、彼の近くに行こうと立ち上がる。

そのとき、真後ろにもう一台車が停まった。

その車のドアが開くなり飛び出して来たのは、


「……おとうさん……おかあさん……」

「若菜っ! なんでこんな無茶したんだ!? どうしてもっと早く……。とにかく部屋で休もう。みんな心配してたんだ。みんなでおまえの……いや、君のことを探し回って……マンションの管理室に電話したら、ずっと待っているみたいだって言われて……」


そんなことを言いながら橘さんは駆け寄ってくる。


「どうして? どうして、そんなに殺したいの? 自分の子供なのに……どうして? こんなことなら、死ねばよかった。わたしごと殺してよ!!」


わたしは大声で叫んだ。もう、話し合う必要もない。橘さんは保身のためにお父さんにすり寄ったのだ。


わたしとこの子に味方はひとりもいない。

そう思った瞬間、彼や両親とは反対の方向に走り出そうとした。

だが、ほんの数歩足を動かしただけで、目の前が真っ暗になる。このまま倒れたら、この子は殺されてしまう……そう思うのに、どうしても身体が動かなくて。

わたしの意識は暗闇の中に吸い込まれていった。


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