もう一度愛を聴かせて…
そんな声がしだいに遠ざかって行きつつ……「あっ!ちょっと待って」


「若菜っ! 若菜、大丈夫か? 苦しくないか? どこか痛まないか?」


橘さんの声が聞こえる。


「でも、よかった。なんともなくて。なあ若菜、おまえほとんど食べてなかったんだってな。ごめんな、こんなに辛い思いさせて」

「ひどい……ひどいよ! 橘さん……わたし、あなたのこと一生恨むから! 一生許さない……こんな、卑怯だよ……最低」


子供を失った悲しみで、わたしは橘さんのことを罵った。


「若菜……ごめん。でも、二度と傷つけたくなかったから、おまえからの連絡を待ってたんだ。とにかく、おまえの望むようにしてやりたいって。もう二度と、勝手な思い込みで突っ走ったりしないって。それがまさか、こんなことになってるなんて」


わたしには彼の言葉の意味が全くわからなかった。


「じゃあどうして? わたしの望みは、あの子を産んであげることだったのに。責任とってなんて、結婚してなんて、言うつもりなかったのに。迷惑かけないって言ったのに……なんで奪ったの? 返して……わたしの赤ちゃん返してよ!」

「ちょっと待て。大丈夫だよ、子供は無事だった。もう大丈夫だから、安心していいよ、若菜。落ちついて……」

「嘘! 逃げ出すから、意識のないうちに殺したんでしょ。……返してよ。わたしの赤ちゃんなのに」

「そんなこと、嘘なんかつかないよ。だってすぐにわかることだろ? 大丈夫だから。もう手術はしない。興奮したら子供によくないから」

「……信じない。橘さんの嘘つき! 後で、倒れたショックで流産した、とか言うつもりなんだ」


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