もう一度愛を聴かせて…
「言ってない。さすがに言えなかった。もし言ってたら、俺は今頃、留置場だ」

「そう、だよね」

「おまえが、決めてくれ。俺のこと訴えるって言うなら、一切否認しない。さっき言ったとおり、刑に服すよ。ただ、ひとつだけ……先に辞表を出させて欲しい。俺はどうなっても自業自得だけど、父と兄が警察にいる。迷惑はかけたくないんだ。ムシのいい話だけど……頼む」


不思議と、赤ちゃんがお腹にいるってわかると、気持ちが落ちついてきた。

何もかもが許せない、信じられない、って思っていたのが嘘みたいだ。


「あ、ねえ、橘さん。さっき……結婚しようって言った?」

「ああ、言ってるよ。さっきからずっと」

「もう、いいよ。責任とか取らなくても。訴えたりしないから、安心して。でも、もう一度だけ聴かせてくれる? わたしのこと『愛してる』って」


すっごく寛大で優しい気持ちで言ったつもりだった。

でも、橘さんは泣きそうな顔になる。


「若菜。俺が告白したときのこと、覚えてる?」

「うん覚えてる。桜が満開だったんだよね。すっごく綺麗だった。だから、この子が生まれたら、あのときのことを話しながら見せてあげるの」


わたしは無邪気に答える。

でも、その答えが彼は気に入らなかったみたいだ。


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