【短編】ユキと最後のKiss
無残にも散った命の灯。
消えてもなお、それは生きていた証を残すように、僕達の記憶に焼きつける。
きっと、僕達もこれから殺されるだろうに――。
そう思ったのは僕だけでなく、彼女や姉も同じだろう。
それは、兄の亡骸の傍に佇む黒いマントの男と思われるその人が、赤い血を滴らせた剣を握っていたから。
その剣は刀身に黒いユリが咲いていて、その黒いユリが血を吸っているようにも見えた。
殺される、分かっていても動けなかった。
家族が死んだと言う事が衝撃的で、恐怖が心を、身体を支配していて、固まったように動けない。
その間にコツッと、普段なら小さすぎて聞こえないだろう一歩を、死へと誘う一歩を、踏み出す音が聞こえて背筋が凍った。
少しずつ此方に向かって来る男に僕は怖くて思わず目を瞑った。
でも、コツッと言う音は止まることなく、それは2回、3回、と聞こえて、存在も遠のいていく。