【短編】ユキと最後のKiss


無残にも散った命の灯。

消えてもなお、それは生きていた証を残すように、僕達の記憶に焼きつける。


 きっと、僕達もこれから殺されるだろうに――。

そう思ったのは僕だけでなく、彼女や姉も同じだろう。

それは、兄の亡骸の傍に佇む黒いマントの男と思われるその人が、赤い血を滴らせた剣を握っていたから。

その剣は刀身に黒いユリが咲いていて、その黒いユリが血を吸っているようにも見えた。


 殺される、分かっていても動けなかった。

家族が死んだと言う事が衝撃的で、恐怖が心を、身体を支配していて、固まったように動けない。

その間にコツッと、普段なら小さすぎて聞こえないだろう一歩を、死へと誘う一歩を、踏み出す音が聞こえて背筋が凍った。

少しずつ此方に向かって来る男に僕は怖くて思わず目を瞑った。

でも、コツッと言う音は止まることなく、それは2回、3回、と聞こえて、存在も遠のいていく。



< 25 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop