【短編】ユキと最後のKiss
死ぬ、そう思ったのに、死んでなどいなかった。
鼻筋の当たりをツーっと何か生暖かいものが伝う。
額の僅かな痛みで、漸く額を突かれただけなのだと理解する。
どうしてこう寸で止めるのだろうか。
疑問ばかりが浮かぶが、マントが顔を覆い隠し、表情は見えない。
ただ、口が動いたのが見えて、体が強張る。
「元は一つだった呪われた子供、お前たちは今回は対象外だ。
この剣はお前達の奥底に眠る欲望に応えただけのこと。
ただし、お前達が死ぬ時はこの剣に貫かれる時だ。
お前達が死んで生まれ変わってもこの剣がお前達ずっと苦しめるだろう」
低く心臓を圧迫するような声が部屋に響く。
それが毒のように頭の中を巡ってボーっとする。
それは隣にいる彼女も同じようでふらついた身体を僕に預けようとするから、僕はバランスを崩し、彼女と一緒に床に倒れ込んだ。
身体中の力が抜けて、意識も遠のく中、男はまだ言葉を続けた。
「意味が分からなくてもお前たち2人の名前、ユキと言う名が証明してくれる」