【短編】ユキと最後のKiss
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「本当に貴女って子は……出来損ないねっ!」
言葉と同時に細く白い手が綺麗な弧を描いて彼女の頬を大きな音を立てて叩いた。
自分が叩かれた訳でもないのに、凄く痛い。
でも、彼女は全然痛くなさそうな顔をして、今、彼女をたたいた張本人である母親を見上げて
ニコリと笑う。
それを見て、心底気持ち悪いと言うような顔をして母親が睨みつけた。
「叩かれたのに笑顔でいられるなんて貴女は頭がおかしいんじゃないの?」
嘲笑うように言うあの人が憎くて、憎くて、僕は爪が食い込むほど自分の手を握りしめる。
「はい、おかしいのかもしれません」
笑顔を崩さずにそう言ってのけた彼女。
母親はそんな姿を面白くないと言うような顔をして、また、手を振り上げた。
「おかしいのかもしれませんじゃないでしょ!」
バシーンッという音が部屋中に響き渡る。
僕はそれをドアにある小さなガラスのとこから見ていた。