【短編】ユキと最後のKiss
どんな思いでそう言ったのか、僕には分からない。
でも、聞いている僕はナイフで抉られるような思いだったのだから、彼女はもっと辛かったに違いない。
「私の話を聞いているの!? 蹴られたぐらいでお腹抑えてないで、ちゃんと座って話を聞きなさい!」
「は、はい…………申し訳ございません…………お母様……」
「いい? 貴女はこの家にいらないのよ。貴女は生まれてくるべきじゃなかった。貴女は生きていてはいけない存在なのよ!!」
雷に打たれて身体中を焼かれたんじゃないかと思った。
それくらい、衝撃的で、死ぬ事以上の痛みだった。
此処にいるのが怖くなって逃げようと身体を動かそうとしたけど何故か動かない。
まるで、四肢は僕のものじゃないかのように頑なに動かない。
立ち上がって、ドアを開けるだけでいいのに、鍵なんて閉まっていないから蹴破る必要だってないのに、それすらも出来ない自分に自嘲するしかなかった。
助ける事も逃げる事も出来なかった僕はとうとうその場で放心状態のまま、彼女の痛みに耐える声と謝罪の言葉を遠くで聞いた。