レインリリー
「キレイにしてるんですね」


夜の国道をややスピードを上げて
滑るように走る彼の車は
国産のステーションワゴンだった。


「部屋は汚いけど。車だけはね」


始めて乗る崇人以外の男性の車に落ち着かない私。

夢心地のまま少しでも自分が綺麗に見えるようにと
気を抜くと開きそうになる足を
揃えてみたりとモゾモゾしてるうちに
車は静かに停車され

サイドブレーキをかける音で
これは確かな現実だとハッと
引き戻された。


――言わなきゃっ。


タイミングをはかるなんて私には、やっぱり無理。

ストレートに話すしかない。


「窓、開けていい?」


吉川さんの了解をとって
半分程下ろしたウインドウから
肌寒い秋の夜風と共に
潮の香りが車内に流れ込む。
< 244 / 247 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop